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斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

カンブリア宮殿 村上龍×経済人 から学んだこと

書籍 ビジネス

紹介したいビジネス書がある。『カンブリア宮殿 村上龍×経済人 人が活きる会社』だ。
本書は、テレビ東京が放映している番組『カンブリア宮殿』をまとめたものだ。関連書籍が10冊近くあり、私はそのうち5冊を購入した。中でも、今回紹介する書籍は特に気に入っている。ビジネスのヒント、叡智に富んでいるからだ。
私が得た学びをブログで書き記しておきたいと思う。

 

 

お客様に損をさせない

「最盛期に比べると、甘味が薄く美味しくありません」
「お野菜が今は美味しくないので、あまり買わないほうがいいです」
これは何のメッセージだとお思いだろう。なんと、スーパーで貼られているPOPの文言なのだ。スーパー『オーケー』のPOPは、ネガティブメッセージばかりだ。通常、POPと言えば、ポジティブメッセージが定石だ。いや、スーパーに限らず、企業が発信するメッセージは基本そうだろう。だが、スーパー『オーケー』はそれをしない。その理由に、オーケーが守り続けている一つのポリシーがあるからだ。

オーケー株式会社 社長 飯田勧氏は言う。

「お得ですよ」というのは、何に比べてお得なのか、比較するものが曖昧じゃないですか。「いや、これはお得じゃ無かったよ」と言われても反論できませんでしょう。「損は絶対にさせません」と言うと、他のお店より高いことがなければ、少なくとも損は絶対にさせていない訳ですから、正直な表現だと思います。だから「ご満足いただけます」というような表現も、私たちはあまり使いません。「ご不満がないように努力しております」と言うようにしています。

このポリシーのあり方は、「特売」へ言及した言葉にも表れている。

「あれはその期間だけ特別に値段を安くしますでしょう。終わると高くなっているわけです。そもそも最初から、私たちのポリシーに合わないわけですね。下げるんだったら、下げる前に、いつから特売で安くなりますから、今は買わないで下さいと言わなきゃならない。

“お客に損をさせないために、正直に伝える。”この誠実な態度がスーパー『オーケー』のポリシーであり、飯田社長が考える独自のビジネスモデルなのである。
この経営姿勢は、惚れる。きっと多くのお客はオーケーのファンになっていることだろう。面白い話に、オーケーのオフィシャルサイトはファンが勝手に作っているそうだ。そんなお客が現れるほど、お客の心を掴んでいるのだろう。
飯田社長は言う。「私たちは熱烈なオーケーファンをどうやって増やしていくかということだけに心を配っています」。

ファンを増やすには、得を与えることでも、自社や商品をより良く見せることでもない。「守れる約束を謳い、それを守る。できない約束はできないと言う」。それだけだ。これは、「お客に損をさせない」と同義である。真摯な経営姿勢だけが、お客の好感と信頼を勝ち取り、ファンへと変えていくのである。

 

 

お客が来るのは美味しいから

「美味しい」。私たちは安易にその言葉を使っている。しかし、美味しいとは一体どういうことだろうか。飲食店を経営する人だったら、一度は真剣に考えたテーマだろう。

このことについて、サイゼリア会長 正垣泰彦氏が語った話が印象的だった。

今、テレビでも美味しい、美味しいと言っていますよね。あの美味しいというのはどういう意味なのか。自分たちはビジネスをやっていますから、美味しいというのはお客さんが増えるということなんです。
(中略)
自分たちでは美味しいというのが分からない。ですからお客さんが増えるのが美味しいということだと定義しているんです。

お客が来ること、それがすなわち「美味しい」である。結果論的で実に分かりやすい定義だ。

サイゼリアがお客を増やすために取った戦略は、品質の向上ではなく、値下げだった。それも7割の値下げ。その結果、店の前に200メートルの行列ができた。つまり、先ほどの定義から言うと、味を変えずにお客に「美味しい」を提供したことになる。すべての商品を7割引きにしたわけではないが、それにしても思い切った値下げである。

私が初めてサイゼリアに行った際、あまりの安さに驚いた。私が安さに驚いた飲食店は、餃子の王将とサイゼリアだけである。
人とは現金なもので、安い買い物をすると「いい買い物をした」と思い込み、安く食べられると「美味しかった」と思ってしまう。俗に言う「他人のお金で飲む酒はうまい」も同じ原理だろう。つまり、人は、舌だけで美味しさを決めているのではない。内装や照明、音楽や食べに行く友人、そして価格。これらの要素が相まって、味の評価に影響を与えるのだ。

話はこれで終わらない。サイゼリアの快進撃はここから始まった。
正垣泰彦氏はこのように述べた。

「自分たちはお客さんが来てくれるのが一番うれしいと思ってやっていますから、お客さんが来すぎちゃう。そこでまた考えるわけです。来たのは安くしたからでしょう。どうしたらお客さんに喜んでもらえるかと考えた結果、隣にどんどん店を出して行くわけです。そのときに値段を上げるとピタッと来なくなっちゃう。どんどん、どんどん出して行く。するとそれがチェーンになっていくんです」

この考え方は学びに富んでいる。つまり、“お客が来てくれている状態”を軸に、店舗展開を行ったのだ。インタビュアーの「値段を上げようと考えたことは?」という質問に対しての回答がそれを表わしている。

「1回もない。値段を下げることが自分たちの社会貢献。どんどん下げる。下げ方というのは1つだけあって、それは原価を下げることでもなんでもなくて、自分たちの働き方の無駄をなくす。これが一番正しい値段の下げ方です」

以前私は「良い物は高くて当たり前」と思っていた。しかしそれは間違いである。企業とは、良い物を安く提供しなくてはならない。
良い物が安くなれば、多くの消費者の手に行きわたる。それが最大多数の最大幸福をもたらす。そのために、企業は存在している。良い物を高くは売ろうとするのは、企業側の高慢でしかない。

良い物であればある程、価格を安くして社会に貢献すべきである。
そのためには、小手先で値段を下げるのではなく、無駄を省き、生産性を上げ、効率化を行い、浮いたコスト分を価格に反映するのだ。それが企業努力であり、務めである。それを地で行く経営をサイゼリアはしているのだ。

 

 

セールス重視からフォロー重視へ

「再春館製薬所」は、誰もが耳にしたことがある会社だろう。30年にもわたるロングセラー商品「ドモホルンリンクル」を日本中に知らしめた、あの会社だ。
再春館製薬所の特徴は、無料サンプルを送り、セールスの電話はほとんどしないことだ。また、アフターフォローが厚いことで知られている。しかし、以前の再春館製薬所は、今では考えられないほどセールスごり押しの会社だったと言う。当時、社長をしていた西川通子会長は、100億の売上を目指すため徹底した電話セールスを行った。その結果、商品とクレームが山のように返ってきた。

西川会長は当時のことをこう振り返る。

何日間かかけて、徹底的に返品の山とクレームを全部見たんですよ。もうなんていうことをやっていたんだろうというような、打ちのめされるようなクレームがいっぱいありました。クレームの中には、「こんなにいい商品なのに、なぜ自信を持たないの」「私はこの商品を死ぬまで使い続けたいと思っているのに、なぜ無理やり売りつけるのか」「どうしてそんなに焦るのか」といった、非常に暖かいお叱りの声もたくさんあったのです。

現実を目の当たりにした西川会長は、お客全員に謝罪文を送り、「お恥ずかしながら」と題した一面広告を出した。この経験を忘れないよう、戒めとして、返品の山を今でも会社に保存しているのだと言う。

ここから「再春館製薬所」の経営姿勢が一変した。
オペレーターには、お客の立場に立ち、なぜ当社にお電話をかけてきたのかを聞きとり、察するよう指導を徹底した。お客視点でのオペレーションをしている内に、社員が自発的にパーソナルな手紙を書くようになったと言う。この手紙がお客から厚い支持を受け、数多くのファンを生み出し続けたのだ。今では、注文の9割はお客からの電話、1割はこちらからの電話だ。1割といってもセールスをするわけではない。ご無沙汰しているお客に「いかがされていますか」という様子伺いをするだけだ。

西川会長が語ったインターネットへの考え方がフォローへの真摯さを感じさせる。

インターネットを主流にするということは考えておりません。なるべく手紙と電話というのが私どものやり方で、非常にアナログですけれども、会話をする、コミュニケーションをする、お客様との信頼関係を結ぶ、というのが基本になります。

ごり押しセールスをしていた頃の売上は120億。それが今では、260億円を超える会社へと成長した。
セールス力があれば、短期的に売上は伸ばせる。しかし、長期的に売上を伸ばそうと思えば、良い商品×手厚いフォローは必要不可欠だ。これができない会社は短命で終わる。30年も会社を存続・成長できたのは、西川会長がセールス中心からフォロー中心へと大きく舵を切ったからだろう。
先行き不安な時代のため、目先の売り上げが特に求められるが昨今だが、今も昔も商売の原則は変わらないのだということを、改めて気づかされる話だった。

カンブリア宮殿 村上龍×経済人―人が活きる会社

カンブリア宮殿 村上龍×経済人―人が活きる会社

  • 作者: 村上龍,テレビ東京報道局
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2012/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

最後に

本書には、16名の経営者との対談が載せられている。その中から3名を紹介した。
終わりに、本書の関連書籍『村上龍の質問術』も紹介したい。
私は本書を数ページ読んだ途端、目頭が熱くなった。書かれていたのは、ヤマダ電機の創業者 山田昇氏の話だ。山田氏の話が私の琴線に触れたのだ。
書かれている内容について、細かく語るのは野暮だろう。引用部分の紹介と、私から一言を添えて、今回の記事を閉めたいと思う。

「最初の、群馬の小さな店をやっていたころは、幸せな時代でした。ご近所のお客様と食事をしたり、テレビの修理のお礼にと、お野菜やお赤飯をいただいたり、家族的で、とても幸福な時代でした」
そういったニュアンスのことを奥様は話されていて、とても印象的だった。収録の最後のほうで、わたし(村上隆)はそのことを聞いた。
「奥さまが、そうおっしゃっていますが、本当ですか。小さな電気屋さんの頃、幸福だったのですか?」すると、山田氏は「その通りです。幸福でした」と答えた。そのとき、とっさに新しい質問が思いつき、すかさず聞いた。
「幸福だったというのは本当なんですね。でも、今、日本最大の家電チェーンを率いているわけで、まちの小さな電気屋さんだったころに戻りたいとは思わないでしょう?」すると、びっくりするような、意外な答えが返ってきた。「いや、戻りたいです。あの頃に戻りたいですね」。
(中略)
わたしは、ある事実を思い出し、涙がにじみそうになるのを必死で耐えた。山田氏は、最愛の娘さんを事故で亡くされていて、出社されると、必ず一輪、棚にある花瓶に花を挿されるのが日課となっている。そのことを思い出したのだ。
(中略)
山田さんは、まだ娘さんが元気でいて、家族みんなで一生懸命働いていた「まちの小さな電気屋さん」のころに、本当に、戻りたかったのだろう。

経営の成功とは何なのか。事業を大きくする意味とは。そんな文学じみたことを、私は考えずにはいられなかった。

カンブリア宮殿 村上龍の質問術 (日経文芸文庫)

カンブリア宮殿 村上龍の質問術 (日経文芸文庫)