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斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

「あれ、何のためにこの仕事始めたんだっけ」。想いとお金との狭間で

ビジネス

3日続けて、同じような問い合わせが来た。
「お金ないんですけど、売れるチラシ作ってください」。
「予算少ないですけど、売れる提案書を作ってください」。

実は、こういう依頼は珍しくない。できる限り提示された予算で作ってはあげたい。だが、大抵の場合、提示された予算では、私が赤字になってしまう。
お金がないと言う依頼者にこちらの費用を伝えると、大抵「検討します」と返してくる。その後、依頼してくる人、依頼してこない人に分かれる。依頼してくる人とは、その後仕事をするからいいのだが、気になるのは、依頼してこない人。私は時々思い出す。「あの人、今どうなったかな。大丈夫かな。チラシ作ってあげればよかったかなぁ」と。

もともと、小さな会社の売上増に貢献したいという想いから始めた仕事だ。そのため、小さな会社の仕事を断るのは忍びない。

以前、こんな電話があった。
「取引先が倒産して、納品した商品の代金が支払われなくなりました。このままでは、来月に資金ショートしています。DMを出そうと思うのですが、そこで私が作ったDMを見てもらえないでしょうか。でも、今は払えるお金がありません。後日でいいでしょうか。必ず払います」。
声を聞く限り、60歳を過ぎた男性だった。彼をAさんと言おう。

Aさんなりに一所懸命作ったのだろう。wordで書かれたコピーにめちゃくちゃなデザイン。いや、デザインと呼べる代物ではなかった。見るからに素人丸出しのDMだ。
一応、指導はするものの、もはや、誰かに作ってもらったほうがいいレベル。2回ほどやり取りをしたのだが、Aさんの力量を考えると、このままではDMを出すのがずっと先になってしまう。

そこで私はAさんに提案した。
「もう私が作りますよ。代金は後でいいです。成果が出たら払ってください。至急、商品写真や資料を送ってください」と。Aさんは喜んで「ありがとうございます。本当に申し訳ないです。ありがとうございます」と、電話の向こうで頭を下げているのが分かるぐらい感謝の言葉を口にしてくれた。
しかしその後、何の連絡も来なかった。待ってても写真や資料が送られてこない。私も自分から催促するのもなんか変だなと思い、連絡しなかった。

あの時連絡するべきだったと今は後悔している。
おそらくAさんは、私に対する申し訳なさがあり、依頼できなかったんだと思う。礼儀正しい感じの方だったし、2倍以上歳の離れた私に、ある意味、無理な要求をしているわけだ。私から提案したとはいえ、Aさんの立場を考えれば、おいそれと依頼できるわけでもない。快く引き受けたからこそ、かえって頼めなくなったのかもしれない。私の考えは浅はかだった。

おそらく、Aさんの会社は潰れた。資産状況も聞いていたし、途中経過のDMを出しても、大した売上にならないと思う。それが分かっていてなぜ連絡しなかったのだろう。私はおごっていたんだろうか。

「お金ないんですが、作ってもらえませんか」という切実な声で依頼されるたび、Aさんを思い出す。「作ってあげたい」という気持ちと、「商売だから割り切れ」という気持ちの狭間で心が揺れ動く。とりあえず、いつも後者が勝つのだが。


あれ、何のためにこの仕事始めたんだっけ。
断るたび、私はいつも葛藤している。