斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

寿司職人が何年も修行するのは、本当にバカな行為なのか

1年前、ホリエモンこと堀江貴文氏が運営する「ホリエモンチャンネル」で放映されたQ&Aが物議を醸した。(2014年12月26日放送)

視聴者の質問
「コロンビアで寿司屋を開きたいのですが、どう思いますか?」

ホリエモンの回答
「いいんじゃないですか。寿司アカデミーに通えば数か月でノウハウが学べますよ。開店資金も自分で貯めずに、現地の金持ちに出資してもらえばいいよ。“自分はノウハウあるから店の運営やりますよ”ってね」

ここに出てくる寿司アカデミーとは、寿司職人が身に付けるべき基本的な技を2カ月で習得できると謳う養成学校である。従来、寿司職人になるには「飯炊き3年握り8年」と言われ、長年の修行を要する。それに近い技術を2か月で学べるのだから、如何に異例なスピードであるかが伺える。当然この放送後には、「2ヶ月で学べるわけがない」「寿司職人を馬鹿にするな」といった反論もあった。


2016年2月15日放送の『ビートたけしのTVタックル』でも、同テーマの番組が企画され、話題となった。東京すしアカデミーを取材した厚切りジェイソンは、効率的に職人の技を学べるアカデミーの取り組みを肯定し、徒弟制度を否定した。これに対してビートたけしは、経験を通じて、板前としての目利きや知識を得ることが重要だとし、徒弟制度を肯定した。

これが一連の流れだ。

さて、私の見解を述べたいと思う。

 

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クオリティーを1割高めるのに、2倍の時間がかかる

一連の騒動を見て、私は以前見たNHK番組を思い出した。
番組名や正確な台詞は思い出せないが、庵野秀明が代表を務める株式会社カラーのスタッフ(アニメーター)を取材した番組だった。番組中、スタッフの一人がこんな話をしていた。
「80点のアニメを85点にするには、その5点のために80点に費やしたエネルギー(コストと時間)と同じだけのエネルギーが必要になる。85点から90点にしようとすれば、さらに倍のエネルギーが必要になる」(記憶なので、一字一句は正確ではありません。大意を理解してください)

この言葉、職人やクリエイターなら理解できるだろう。

仮に、寿司アカデミーで習得した技術がギリギリお客に出せる70点の寿司とする。10年間修行した職人の寿司を90点とする。二つの寿司の差は20点しかない。しかし、この20点には、10年分の差があるのだ。プロや舌が肥えた人間にはそれが判る。

テレビ番組『芸能人格付けチェック』では、アマとプロの演奏家の曲を聴き比べるお題がある。テレビを見ている視聴者の多くは、「違いがよく分からない」との所感を持つのではないだろうか。私も正直よく分からないし、しょっちゅう予想を外す。おそらく、レベルの高いアマとプロの差は、5点とか10点とかの差なのかもしれない。だが、プロからすれば、その5点と10点の差は、とても大きな差なのである。

プロ野球もそう。3割打者と2割8分打者の差は、たったの2分だ。だが、この2分の差で年収が大きく変わる。数字の裏には、数字では表せない背景がある。

つまり、何が言いたいのか。
効率性を重視するなら70点とか80点を目指すとよい。しかし、それ以上を目指すのならば、非効率の領域に入る。5点10点伸ばすために、それまで費やした分だけの時間や経験を必要とするからだ。

“人前に出せる寿司”を目指すなら、2ヶ月で学べる寿司アカデミーがいいだろう。しかし、より高みを目指すのなら長年の修行が必要となる。念を押しておくが、それは圧倒的に非効率な行為である。ただ私は、たとえ非効率だとしても、最高を追及する者こそ、真の職人なのだと思う。

 

 

最後に

寿司が回らないお店に誰か連れて行ってください。

 

 

 

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