斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

類推思考とハイブリッド思考を身に付けろ

約2年前から私は、「○○よりも△△」ではなく、「○○も△△も大事」と一見対立する事物を両立するように心がけている。たとえば、「機能性かデザイン性か」ではなく、機能性もデザイン性も両立した商品を目指せばいいと考える。同様に「具体的か抽象的か」ではなく、具体的にも抽象的にも思考できればいいと考える。

このような考えに至ったのは「類推思考」に着目したからだ。
※類推思考とは、二つの事物の間に本質的な類似点があることを根拠にして、一方の事物がある性質をもつ場合に他方の事物もそれと同じ性質をもつであろうと推理すること。

あるとき私は、発想力や表現力が優れている人は、「類推思考力」が優れていることを発見した。私も類推思考力を鍛えようと、何かを考えるたび似た事象はないかと類推するようにしている。これを続けているうちに、類推には「抽象化」する過程があることに気づいた。

これに気づいた時、今までの考え方を改める必要があると悟った。私は仕事柄、いつもロジカルかつ具体的に考える機会が多く、また、それさえできれば十分だと思っていた。しかし、それだけでは類推思考はできない。ラテラルや抽象的に思考する力も必要なのだ。

一見対立するような事物の両方を扱えるようになることで、類推力のみならず、様々な可能性が広がる。発想力や表現力、観察力やパターン認識力、キャリアやスキルなどだ。類推思考力を鍛える過程で、この気づきを得たのは大きな収穫だった。

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ハイブリッド思考との出合い

先般、私と同じ論を説いている一冊の本を手にした。書籍『ハイブリッドに考える思考の技法』(著者 高津 尚志)である。著者は、複数のものを組み合わせて新たな価値を生み出すことを「ハイブリッド思考」を呼んでいる。本紙では、ハイブリッド思考の重要性をこう説いている。

左脳的能力が大切であることは間違いありません。しかし、戦略コンサルタントの中でも一流の人たちは同時に、感性、直感、芸術的感覚と言った右脳的能力を使っているのです。
多くの情報を積み重ねて、そこから仮説を立てる瞬間、あるいは検証を繰り返して最後の最後に「解」を導き出す瞬間、ある種の直感的・芸術的飛躍が必要になります。そのとき、右脳的能力の出番です。
そうやって直感的に閃いた仮説や解を、もう一度、左脳的能力を使って論理的に検証し、説明します。つまり、難しい問いに対して、創造的な解決策を提案し、人を納得させるには、右脳と左脳の力をフル回転させることが大切なのです。

ハイブリッドに考える思考の技法

ハイブリッドに考える思考の技法

 

 

引用文に記されているように、“どちらか”ではなく“どちらも”活かすことが重要である。

しかし人は、往々にして自身を慣れたほう(ラクなほう)にカテゴライズしたがる。たとえば、「私は左脳寄りだから」「自分は文系だから」と。私の場合で言えば、「発想力より論理力」「抽象的よりも具体的」というふうに。
これらのカテゴライズは、自身の可能性を限定的にしている行為だと言ってもよい。また、バランスの欠いた状態とも言える。

本書では、ハイブリッド思考の有効性と一辺倒の思考について、こう記述している。

他社とのコラボレーションやパートナシップにおいても、とても有効です。仕事相手が外交的側面の強い人であれば、自分は内向的な面をより強く出す。相手が技術に強めれば、自分は経営的な視点で見てみる……というように、相手によって差し出す力を変えることもできるからです。
特定の分野、スキルでしか秀でている部分がないと思い込んでいると、ある相手や状態ではとてもいい仕事ができますが、そうでなければうまくいかなくなります。

これからの時代、どちらか片方ではなく両方を扱えなければビジネスパーソンとして生き残ってはいけないだろう。慣れた場所(コンフォートゾーン)に留まっていては、可能性を縮めるだけだ。

ちなみに、本書ではハイブリッド思考の事例として以下を紹介している。
「拡散×収束」「空気を読む×流されない」「専門領域の確立×趣味の幅の広さ」「革新的×普遍的」「リーダー×フォロワー」「利己×利他」「部分×全体」「教える×学ぶ」「慎重×大胆」「短期×長期」。

 

 

類推思考(アナロジー思考)は全思考に影響を与える

類推思考に話を戻そう。
類推思考力は、発想力、表現力、応用力、観察力など多方に寄与する。それぞれ個別で鍛えるよりも、類推思考力だけ鍛えればいいのではないかと思うほど、数多くの力をまたがっている。

諺の「一を聞いて十を知る」は、まさに類推思考力を指している言葉だ。類推思考力さえあれば、一つの事象からいくつもの事象に関連付けすることができ、学習効果が何倍にもなる。たとえば、他業種の成功事例を見聞きして、自社に応用できるか否かは、類推思考力のいかんによって決まる。類推思考力のある人は、業種に関係なく、自社に応用して考えることができる。

ここで書籍『アナロジー思考』(著者 細谷 功)を紹介したい。
アナロジーとは類推を指しており、本書ではアナロジー思考の重要性と構造を説いている。本の帯には「戦略思考、仮説思考、フレームワーク思考、ラテラルシンキング……すべての思考は、『類推』から始まる」と記されていた。この帯を見ただけで、著者も私と同じ結論に達したんだなと直感した。全ての思考をつかさどるのは類推思考である、と。

本紙の「はじめに」の一文を紹介しよう。

単なる「雑学博士」と発想力が豊かな「アイディアマン」を分けるもの、それはアナロジー思考である。19世紀のアメリカを代表する哲学者・心理学者で、夏目漱石や西田幾太郎にも影響を与えたと言われているウィリアム・ジェームズは「才能の最良の指数はアナロジーに気づく能力である」という言葉を残している。(p1-2)

アナロジー思考

アナロジー思考

 

 

また、書籍『新版 これからの思考の教科書』(著者 酒井 譲)には、このように記されている。

二つの異なるものごとの間に「結びつき(共通点)」を見つけ出すのは、発想法の原点です。一見なんの関連性もないような二つのものごとの間に強烈な結びつきを発見するような「成功体験」が、脳を活性化させることもわかっています。
日常的には、何らかの複雑な事象を説明するために比喩を使うことが誰にでもありますが、特に比喩に長けてるということは、それ自体が異なるものごとの間に共通点を見つけられる力の証明でしょう。アリストテレスも、優れた比喩が使えることは才覚の証としていました。(p131)

 

類推思考力があれば、感性豊かな比喩を生み出すことができる。それはつまり、発想力や表現力に長けている証だ。偉人たちも「類推思考力」は、とりわけ特別な「才」であることに気づいていた。何度も言うが、類推思考力は、他の思考力をまたがる特殊な能力である。

 

 

まとめ

今回、三冊の書籍を紹介しつつ類推思考について述べてきた。本当はいつの日か、類推思考の構造や鍛え方など本ブログでお伝えしようと考えていた。しかし三冊の書籍には、私が書きたかった内容以上のことがすでに記されており、自身で書くモチベーションがなくなった。ざっくりとした類推思考の解説と、書籍の紹介にとどめさせてもらう。能力を最短で伸ばしたいのであれば、類推思考力を鍛えることを強くお勧めする。

 

 

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追記 2020年5月13日
アナロジー思考を鍛えるノート術『ジーニアスノート」を開発しました。