斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

えっ!? 一つのスキルを極めれば生き残れるって、まだ信じてるの

近年発行された書籍を読んでいると、二つ以上のスキルを持つ必要性を説く記述をよく目にする。それだけ、ビジネスの最先端を行く人たちが一つのスキルでは生き残ってはいけないことに気づき始めている兆候だろう。

私も、一つの専門領域でスキルを磨きさえすれば生き残っていけるという考えは、すでに「過去の成功法則」となり果てたと見ている。いまや、一つではなく二つ以上の専門性が求められる時代となっている。

 

 

スキルを二つ以上持つ必要性

そもそもなぜスキルを二つ以上持つ必要があるのか。その理由は大きく分けて二つある。

一つ目の理由は、事業の短命化だ。1983年頃、「会社の寿命は30年」と言われていた事業寿命も、今や3年前後と言われている。3年は言い過ぎだとしても、10年以内に半分以上の会社は倒産する。

二つ目の理由は、仕事の消滅である。すでに聞いたことのある人も多いだろうが、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は「今後10~20年で約47%の仕事が自動化される」と述べている。ほとんどの仕事が機械に代替されてしまうのだ。

冒頭で述べた通り、こうした背景から複数のスキルを持つことを説く人たちが増えてきた。書籍『ワーク・デザイン』(著者 長沼 博之)では、パラレルキャリアを提言している。

今や終身雇用がないのは当然ながら、元気である限り、何らかの仕事・活動を続けていく時代になっている。つまり、本業を一つ持って、生涯それだけをやり続けると言うキャリアプランは現実的ではなくなっているということだ。だから「パラレルキャリア」が必要なのである。(中略)
社会の大変化とともに、企業や活動への評価基準の変化、そして「働く」の定義すら変化している。敏感な人はそれを痛切に感じ、すでにパラレルキャリアを築き始めている。次の時代の足音を感じ、年代を問わず「働く」に対して。いくつもの側面を見いだしながら仕事をしている。名刺を2枚、3枚と持ち歩く人が普通になっているということだ。

ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉

ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉

 

 
書籍『一生食える「強み」の作り方』(著者 堀場 英雄 氏)でもまた、1万時間の鍛錬で身に付くプロスキルではなく、2,500時間で身に付くプチスキルを複数かけ合わせたレア人材の必要性を説いている。

たとえば、特定の家電製品を取り上げて詳しく熱いトークを繰り広げる「家電芸人」。彼らは「家電×芸人」というかけ算で自分たちのポジションを確立していると言えます。(中略)
「芸人」という職業(スキル)も、そこに別のスキルをかけ算することで、独自のポジションを得ることができ、他のライバルにはない強みが生まれます。この「かけ算」でのキャリアづくりに、私はこれからの時代を生き残るヒントがあると思っています。

一生食える「強み」のつくり方

一生食える「強み」のつくり方

 

 

上記の二冊は、スキル(キャリア)のかけ合わせがいかに時代にマッチしているのかを説き、同時に、効果的なかけ合わせ方も述べている。(詳しくは書籍を一読してほしい)。

スキルのかけ合わせは、時代の流れに掉さして“仕方なく”するものではない。スキルのかけ合わせは思わぬシナジー効果を生み、新たな価値を創造するための戦略でもある。

 

 

能力開発のためにスキルをかけ合わせる

スキルを複数持つことは、積極的な能力開発と言える。一つの専門分野では起きえなかったシナジー効果が期待できるからだ。書籍『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』(著者 村田 智明 氏)には、こう記されている。

濃い専門性を複数持つ方法として、ダブルメジャーという考え方があります。ダブルメジャーとは、二つの専攻で学位を取ることです。海外の大学ではすでにダブルメジャーの選択ができるようになっています。
たとえば、デザイン関連の学部に所属している学生でも、法学や医学を学べます。デザインと法律は決して無関係ではありません。近年は知的財産権や著作権と言った知識が求められ、両方の分野に精通していれば他のデザイナーと差別化できます。(中略)
もしフライパンのデザインを依頼するとしたら、著名なデザイナーと料理人のどちらに頼みますか。美しいけれど料理に向いていないデザインと、ビジュアルに難があっても実務に即したデザインの二者択一になりがちです。しかしダブルメジャーのデザイナーがいたらどうでしょうか。「料理にも精通したデザイナー」であれば、美しく機能的なデザインが生まれます。

問題解決に効く「行為のデザイン」思考法

問題解決に効く「行為のデザイン」思考法

 

 

ダブルメジャー(スキル×スキル)があれば、機能かデザインかの二社択一ではなく、両方を備えた統合したものが生まれる。この「統合」ができる人材こそが、今後必要とされる人材なのだ。
 

 

それでも専門性にこだわりたい方へ

「パラレルキャリア」「レア人材」「ダブルメジャー」、名称は違うが、肝要点は同じである。要は、「専門領域を二つ以上持ち、それらをかけ合わせた人材になること」だ。しかし、このブログを読んでいる人の中には、「自分はこれしかない。これ以外のものをしたくない」と頑なに事実を拒む人も一部いるだろう。そんな人への福音がある。

書籍『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(佐宗 邦威 氏)にこう記されている。

英国の大手デザインファーム・シーモアバウエルのシニアデザイナー池田武央氏は、デザイナー側からの越境者の役割として、「T字型人材」から「H型人材」への変化を提言しています。
人事評価の世界でよくいわれる「T字型人材」とは、特定の分野を極め、その深い専門知識と経験・スキルの蓄積を自らの縦軸に捉えつつ、さらにそれ以外の多様なジャンルについても広い知見を持っている横軸を持つ人材のことです。(中略)
H字型人材とは、強い専門性が一つあり、他の人の専門性と繋ぐ横棒を持ち、ほかの人とつながってHになるという、“人と繋がりやすい”人材の像です。(中略)
かつては、自分の専門性を磨き、レバレッジをかけて他分野の専門家と分業し、戦略的に大きなインパクトのある成果を出していく働き方がよいとされていました。しかし、変化がおきやすい今の時代においては、柔軟性を高めるために、のりしろの役割を果たせる越境人材の価値が高くなってきているのだと思います。 

21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

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一つの専門性を深めつつ、他の専門性とののりしろ(架橋)ができるようになれば、自身が複数のスキルを有する必要はない。そのためにはプロトタイピング、コミュニケーション能力、デザイン思考などをある程度習得する必要はあるが(詳しくは本書で)。

「スキル×スキル」を自身でしようが、他人としようが、「統合」による価値創造ができなければこれからの時代、生き残ることができないのは確かだろう。この時勢からは逃れることができない。

 

 

まとめ

二つ以上のスキルを持つ時代を目の前に、あなたはどのような所感を持っただろうか。「大変そう」「厳しい時代になった」。確かにそれはある。だが、自分の可能性を広げるチャンスと捉えることもできる。私は「あれもやりたい」「これもやりたい」と好奇心旺盛な人間であるため、どちらかというとポジティブにこの事実を受け止めている。悲観的ではなく、楽観的に捉えたほうが、楽しくキャリアアップに励めるのではないだろうか。

 

 

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