斜め45度からの理説

どこにも転がっていない理論や方法論を語ります。

セルフブランディングは、『自己プロデュース力』から学べ

最近流行りの言葉「ノマド」「フリーランス」「SOHO」が代表するように、企業に属さず個人で働く人が増えてきた。それに伴い、「セルフブランディング」「パーソナルブランディング」といった、個人のブランディングを促す言葉も散見するようになった。

私も仕事柄、「ブランディング」に関する情報や書籍には目を通している。しかし、これといったものに中々巡り合わない。どうも、本質的な部分が抜け落ちている感が否めないのだ。

自己プロデュース力 (ヨシモトブックス)

自己プロデュース力 (ヨシモトブックス)

 


そんな中、唯一と言えるほどセルフブランディングの核心を突いている書籍に出合った。『自己プロデュース力』(著者 島田紳助)がそれだ。かれこれ3年前に購入した書籍だが、ブランディングに関してこれほど至言に富んだものは読んだことがない。
今回は、この書籍の内容を一部引用しながら、セルフブランディングについて解説したい。

 

 

この世のすべては才能である

私は本ブログを通じて、才能について幾度となく記事を書いてきた。おそらく、本ブログで最も多く取り上げたテーマは才能だろう。なぜ、才能についてこれほどまで言及するのか。それは、“成功も富もすべは才能で決まる”と確信しているからだ。

私の述べる才能論は、耳当たりのよい話ではない。巷では「好きも才能」「努力できるのも才能」「続けられるのも才能」など、無才の人を慰めるような言葉があるが、私はすべてを否定する。才能とは、持って生まれたもので、好きや努力は才能ではない。理由は、他の記事で述べているのでそちらを一読して欲しい。

 


さて、『自己プロデュース力』で述べられている島田紳助氏の言葉と私の考えは一致する。ここで一部引用しよう。

この世のすべては才能です。別に漫才に限らず、どんな仕事でもね。そして才能は生まれ持ったもの。今日の授業をどんなに熱心に聞いたって、僕の才能を君たちにあげることはできません。だけど、努力の仕方は教えてあげることはできます。
例えば、才能に、通知表みたいに5段階あったとしましょう。そして、努力にも。もし、5の才能の人間が、5の努力したとしたら、5×5=25で最高の結果が出ます。ただし、5の才能を持っていても、1の努力しかしなかったら、5×1=5でたいした結果が出ません。

 

島田紳助氏も私と同様に、才能と努力を区別している。
私が「好きは才能じゃない」「努力できることは才能じゃない」と言い続けているのは、それらを才能と定義してしまうと、自己の能力を完全に見誤り、ひいては戦略までも見誤ってしまうからだ。
プチクリ(プチ・クリエイター)レベルで満足したいのであれば「好き」を才能と思い込み、自己満足に浸り、楽しく仕事をするのも構わない。だが、もし自分のいる分野で大成したいのであれば、自分の能力は正確に把握しておかなければならない。そのためには、明確に「才能」と「好き」と「努力」を区別する必要があるのだ。

自分の能力を把握できたなら、次は「どうしたら売れるのか」を考えなければならない。これについても島田紳助氏は同様のことを述べている。

僕には楽しいか楽しくないかより、どうしたら売れるか、どうしたら世に出られるか、そっちの方が重要でした。
僕がまずしたのは、「教科書」を作ることでした。漫才には教科書がない。だからこそ、僕は十八歳でこの世界に入った時、自分で教科書を作ろうと思ったんです。「これで勉強したら、絶対に売れる」という「教科書」を。
僕は自分が「オモロイ!」と思った漫才師の漫才を、片っぱしからカセット・テープに録音して行きました。(中略)
そいやって録音した漫才を、今度は繰り返し再生して紙に書き出していく。書きだすことで、なぜ「オモロイ!」のかが段々とわかってきたんです。


私は、起業をテーマにしたセミナーに講師として招かれ、講話する機会がある(今月もある)。その際、受講者に必ず伝えていることがある。それは、「売れるか売れないかを第一に考えろ」ということだ。起業家には、これを疎かにする人があまりにも多い。「自分は○○が好きだから、きっと○○の才能がある。だから成功する」などという甘い妄想に取りつかれて起業すれば、苦汁を飲む羽目になる。

どんなに好きなことでも「ニーズがないな。競合に勝てないな」と思えば、起業しないほうが無難だ。精神論だけで中身がスッカスカな自己啓発書を読み、ポジティブシンキングに踊らされて起業してはならない。

島田紳助氏は、競合を徹底的に分析することにより、「どうしたら売れるのか」を自分なりに解き明かした。それを彼は「教科書」と呼んでいる。彼は決して、好きなことを好きなように漫才していたわけではない。緻密な分析が背景にあったからこそ、面白い漫才ができていたのだ。
その意気込みは、はじめて相方の故・竜介氏と組んだ時のやり取りにも表れている。

最初は漫才の稽古はせず、僕の「教科書」を使って、あいつに授業するわけです。「これからの時代、何が売れるのか」「どうやったら売れるのか」と。

 

ここまで冷静に競合や市場を分析できて、はじめてブランディングの下地が整う。もう、この時点で他のブランディングに関わる書籍とは一線を画していることが窺える。
さて次からは、ブランディングに触れていこう。

 

 

ブランディングする前にポジショニング

ブランディングについて、多くの人が見落としている点がある。それは、ポジショニングだ。

実は、ブランディングする前にポジショニングをする必要がある。ポジショニングに失敗していれば、どんなにブランディングをしても意味がない。

ブランディングを専門にしているコンサルタントなどは多いが、彼らの中に、ポジショニングについて一切触れない人がいる。専門家に対して失礼なことを言うが、「この人、分かってないな~」と正直思ってしまう。ポジショニングを語らずして、なぜブランディングが語れるのか、私には理解できない。

ポジショニングとは何か。一言で言えば、「勝てる場所を見つけ、そこでしか戦わないこと」だ。

島田紳助氏は、これを徹底して行った。

当時の僕はよく仕事をすっぽかしました。(中略)
実は、仕事をすっぽかしたのには理由があったんです。それは、「勝てない現場には行かない」ということ。(中略)
他のコンビと戦って負けるぐらいだったら行かない方がマシ。(中略)
巨人のやるモノマネを見たら、びっくりした。「ああ、これがプロになる奴のモノマネか」。それで、「紳助さんもやってくださいよ」と言われたけど、「俺、でけへんねん」と誤魔化したんです。それ以来、「モノマネは絶対せんとこ」と思って、封印しました。さっきの話で言うところの、「勝てない現場」だから。


自身のポジションを見極め、それ以外のポジションでは一切戦わない。
こうして自分のフィールドを見極め、確実に白星をあげていくのがブランディングなのだ。
いかにポジショニングがブランディングの中核を担っているかが分かっていただけただろう。ポジショニングこそが、ブランディングの成否を決めるのである。

 

 

時勢を読まなければ大成しない

勝てるポジションを見い出し、ブランディングに成功したとしても、時勢を読めなければ大成しない。時代に合った価値を提供できなければ、売れることはないのだ。これも、ブランディング理論では、あまり語られていない点だ。

もし、時勢に合わない仕事で努力して、価値を提供しても、徒労で終わってしまう。「好きなことは才能」が嘘であるように、「努力すれば報われる」というのも嘘である。そんな内向きな視野では、市場のニーズを満たすことはできず、商売で成功することはないだろう。逆に、ポジションと時勢が合致すれば、大成する確率は飛躍的に向上するのである。

島田紳助氏も時勢の重要さについて説いている。

僕がよく言うのは、「X+Y」でものを考えろ、ということ。
「X」は自分の能力。(中略)「Y」は世の中の流れ。(中略)
この「X」と「Y」がわかった時、はじめて悩めばいい。(中略)
「X」と「Y」もわからずにどんなに悩んだって、それは無駄な努力です。(中略)
売れ続けるには、常に「X」と「Y」がぶつかっていなければいけない。そのためには、動いて「Y」に合わせて「X」を変化させなければいけないんです。


企業はいつも同じ価値を提供し続ければいいというものではない。それは、個人で働く人であろうが同じだ。

時勢に合わせて価値を変化させることは、必ずしも「価値の向上」を指すわけではない。「変化」と「向上」はイコールではないのだ。書籍では、さんま氏を例に出し、彼の芸はいつも同じに見えていても、実は時代の変化に合わせて芸を変化させていると説いている。
売れる、売れないの主導権は、常に市場が握っている。商人は、市場に合わせて価値を提供し、市場の変化に合わせて価値を変化させるしかないのだ。

島田紳助氏の『自己プロデュース力』の紹介は以上とする。
本当に至言に富んでおり、ここで紹介しきれなかった言葉はいくつもある。実は、今回引用した言葉はすべて序盤部分だけである。中盤、終盤にも素晴らしい内容が述べられているので、セルフブランディングに関心のある人は、ぜひ手に取って熟読して欲しい。

 

 

まとめ

才能と努力は違う。自分の才能を知り、自身に何ができるのか(X)を見極める。そのポジションで戦い、勝ち続けることこそがブランディングである。
ブランディングに成功しても時勢(Y)を読み間違えれば大成しない。ニーズのないポジションでブランディングしても、それは無駄な努力で終わってしまう。
「X」と「Y」軸が交差する場所に成功のカギがあるのだ。