SNSの台頭により、文章を書いて情報発信する機会が増えた。
この記事を読んでいる人の多くも、何かしらのSNSを通じて、情報発信している人に違いないだろう。
書く機会が増えたためか、書店ではいくつもの「文章の書き方」に関する書籍が並んでいる。私も仕事柄、文章を書く機会が多い。「文章力のある文とは、どのような要素で成り立っているのか」などを模索し続けてきた。辿り突いた答えは、文章力には3つの要素があるということだ。
その3つとは何なのか。これらについて解説したい。
誰が書くか
まずは、下の図を見てほしい。
文章は、「誰が書いたのか」が一番下の土台となっており、次いで「何を書いたのか」。最後に「どう書いたのか」がくる。文章は「誰が何をどう書いたのか」で決まる、ということだ。
私なりにウェイト付けすると、
「誰が書いたのか」・・・80%
「何を書いたのか」・・・15%
「どう書いたのか」・・・5%
どんなに文法が正しかろうと、どんなに理路整然とした文章を書こうと、誰が書いたのかが文章では一番重要になる。これは文章だけに限らない。発言全般に言えることだ。
たとえば、大リーガーのイチロー選手の名言に「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道」がある。しかし、似たような言葉は世の中にいくつもある。親も教師も教えている。だが、名言としては残らない。それは無名だからだ。
著名な経営者と一介の経営者が同じ言葉を発しても、前者のほうが評価され、歴史に残る。同じ言葉でも、誰が発したのかによって、意味も重みも全く異なってくるのだ。何を書いたのか、どう書いたのかは二の次、三の次。このことをまず念頭に置いてほしい。
今の文を読んで、「いやいや、私は誰が書いたかより、何を書いたかを重視するよ」と批判的な人がいるかもしれない。確かに、「誰が」よりも「何を」優先する人が一部いることを私は知っている。だが、そんな人は人口の1%にも満たないだろう。99%は「何を」より「誰が」を優先する。
たとえば、あなたが書店で書籍を購入する際、著者のプロフィールや肩書きを見ないだろうか? もし、見ているとすれば、あなたは「誰が」を評価軸に入れていることになる。人はお金を払ってまで書籍を購入する際、題材について語るに足りうる人物かどうかを吟味して精選している。ほぼ間違いなく、あなたもそうだ。
この事実は、出版社も熟知している。そのため、どんなに優れた内容の原稿を持ち込んでも、それを語るに足りうる人物でなければ書籍にはしない。一介のサラリーマンが書いた人生の格言集など売れるはずもないのだ。
「誰が書くのかは、何をどう書くのかより重要」。この事実は一つの答えを示している。
それは、自分の書く文章に力を宿したければ、社会的評価を高めればいい、ということだ。何かの専門分野で実績を作り、周りがあなたの言葉に耳を傾けてくれるようになればいい。一言で言えば、ブランディングである。地道で泥臭いが、これが着実に文章に“力”を宿す方法なのだ。
何を書くか
「人と違った着眼点で記事を書きたい」。そう思っている人は多くいるだろう。私もその一人だ。
私のブログタイトル「斜め45度からの理説」を見て分かるように、ほかとは一線を画した視点で記事を書きたいと考えている。だからと言って、専門分野以外の記事は一切書かない。あくまでも、専門分野内で如何に面白い記事が書けるかにこだわっている。なぜなら、何を書き続けてきたかは、ブランディングに大きな影響を与えるからだ。
たとえば、日本家屋について1000記事書いていたら、日本家屋の設計士でないとしても、この道の知識人だと評価される。何を書き続けてきたかは、あなたを形成する活動でもあるのだ。
何を書くのか(テーマ)は、大小ある。
小さいものから言えば、記事のテーマ・カテゴリーテーマ・ブログのテーマなどだ。しかし、まだこれでは小さい。本当に大きなテーマは、「生涯を通じて書き続けたいテーマ」を持っているかどうかだ。
10年前、私が写真撮影にハマっていたとき、長年、写真を趣味にしている人から教えられた言葉がある。「深井君、プロとアマの違いって何だか分かるかい? プロとアマの違いはね、一生涯通じて撮り続けたいテーマがあるかどうかだよ」と。
あれから10年経った今、以前よりはこの言葉の意味や深さが理解できるようになった。それは理屈的な理解ではなく、体感的な理解と言える。
抽象的で情緒的な表現で申し訳ないが、あえて言わせてもらえば、一生涯通じて書き続けたいテーマを持っている人の書く文章には魂が宿る。文章に限らず写真でもその他の作品でも同様ではないだろうか。一生涯通じて、表現したい・追求したいテーマを持っている人の作品は一味違う。
前章では、「誰が書くのか」のほうが「何を書くのか」より重要だと述べた。社会的評価を得ている人のほうが発言力はあるからだ。だが、少し考えてもらいたい。社会的評価は、一朝一夕で築けるものだろうか。その人もまた、何かしらのテーマを持って生きてきたから、その地位に着けたのではないだろうか。そう、「何を(テーマ)」を持っている人だけが、「誰が」の域に行けるのだ。
もし、あなたが無名ならば言いたい。
無名であることに卑下する必要はない。徹底的に「何を書くのか」にこだわればいい。本気で「何を(テーマ)」を追求していれば、必ずや社会的評価は築けるだろう。
一生涯通じた何かに取り組むことは、「何を成したいのか、何に成りたいのか」に通じる。文章を通じて悟ったのは、「何を」が「誰を」を作るという真理だ。
どう書くか
ここから先の話は、数多くの書籍が伝えている内容ばかりになる。
というのは、嘘。
細かい文法や日本語の使い方は、ほかの書籍に任せる。私は書籍に記されていない「どう書くか」の核心について書くつもりでいる。
「どう書くか」は冒頭の図で表している通り、5つの要素で成り立っている。下から順に説明して行こう。
分かりやすい
「どう書くか」で最も大切なのは分かりやすさだ。分かりにくければ、読んでいてストレスを感じ、読者は途中で読むのを止めてしまう。
では、分かりやすい文章を書くには、どうすればいいのか。まずは、骨組とも言える構成を順序立てて作ることが大切だ。何をどの順番で伝えるのか。この順番がチグハグでは、伝えたいことも伝わらない。
次いで、文法である。間違った文法で書かれた文章では、読者に混乱や誤解を与えてしまう。これもまたストレスだ。正しい構成や文法については、他の書籍にも書かれているので、そちらを参考にしてもらいたい。
さてここからは、書籍では書かれていない話を書こう。
構成・文法は、基本中の基本だ。文章を書く人が最低限身に付けていなければならない型とも言える。それができることを前提として、他より頭一つ抜きん出る方法をお伝えしよう。
それは、「たとえ話」である。
「たとえ」とは、2つの意味がある。「例え」と「喩え」だ。
「例え」とは、語っている事柄に関する事例・仮説のこと。「実際にあった話ですが……」「例えば、こんな場合にどうしますか……」などがそうだ。例え話があれば、具体性が増し、想像もしやすくなる。
大切なのは、次の「喩え」である。
「喩え」とは、語っている事柄の外の事柄を持ち出してくることだ。「まるで○○のよう」「○○で言うところの……」などがそうだ。
実は、この「喩え」にセンスが表れる。
たとえば、元芸人の島田紳助や芸人の上田晋也はこの「喩え」が秀逸である。テレビの前で彼らが言う喩えに腹を抱えて笑った人も多いだろう。「喩え」をするには、引き出しが多くなくてはいけない。本題を他の事柄と結び付ける柔軟な発想力も必要とする。筆者のセンスを見たければ、「喩え」に着目すればいい。喩えが秀逸なら、文章は面白く分かりやすくなる。また、親近感も湧きやすい。
「たとえ」の扱い方一つで、文章を分かりやすく、かつ、幅と深みを持たせられるのだ。
※「このブログは喩え話が乏しい」というツッコミは厳禁である。
読みやすい
文章の読みやすさは、読者への思いやりから来る。文字のサイズや色使い、フォントの選定や漢字の比率、行の長さなど、読みやすくする工夫はいくつもある。その中で、私が最も大切にしているのは、「間」である。
漫才でも演劇でも会話でも、間の大切さを説いているものは多い。文章でも「間」は大切な要素だ。
文章における「間」は色々ある。文字と文字との間隔、行間や段落、上下左右の余白などがそうだ。間が一切なく、海苔弁のように文字がビッシリと詰まっている文章は、それだけで敬遠してしまう。
私も文章を書いていて、どこで改行して一段落空けるか頻繁に悩む。私はいつもwordで原稿を書いてからブログにコピペするが、Wordでしっくりきていても、ブログにコピペするとしっくりこないことが多い。また、スマホで読んだ時も違った印象を持つため、間をいじったりすることも珍しくない。それぐらい間の使い方には気を配っている。
「間」は、原稿が載る場所でとり方が違ってくる。環境に合わせて間を調節する。または環境自体を調節する。こうした一手間が読みやすい文章を形作る。
本章の冒頭で「ここから先の話は、数多くの書籍が伝えている内容ばかりになる」と述べた後、数段落開けて「というのは、嘘」と書いた。これも間のとり方の一つである。文章でも、会話しているように、間の使い方で一呼吸置くことも可能なのだ。
間は、読みやすさだけではなく、文章に「味」ももたらすため、覚えておくといいだろう。
共感
筆者の書く内容に共感を覚えると親近感が湧く。
「我が意を得たり」と思わせる文があれば、読者は自分の考えに自信が付く。このように共感とは、筆者と読者の考えが同調した際に起きる。そのため、客観的な事実やデータのみを並べられた文章では共感は起こりにくい。それよりも、筆者の考えなどが前面に出ているほうが読者からの共感は得られるのだ。
ただし、考えを前面に出すと言うのは、ある意味、諸刃の剣である。それは、自身の考えを前面に出せば出すほど、それに反する考えの人からより強い反感や批判が起きるからだ。その力加減は、筆者に任せるしかない。個人的には自身の考えは最大限前面に出すように心掛けている。
上記の話は、ほかでも記されている内容だろう。私は、さらに上位の共感について述べてみたい。
先ほど、共感とは筆者と読者の考え方の同調と述べた。これは、読者が明確な考え方を有している際に起きる現象だ。これのさらに上位の共感とは、読者がなんとなく感じていたことや考えていたことが言語化されたときに起きる。
大切なことなので、もう一度言葉を変えて述べよう。
人は、霞みがかっていた考えや所感を、明確な言語で記された時、強い共感を覚える。「そうそう、そうなんだよ!」と。つまり、筆者がするべきことは、読者のおぼろげな考えや所感をきれいに整理して、言葉を紡いであげることなのだ。
私はそれを筆者の大切な役割だと考えている。何かを書くとき、「あなたの代わりに言葉にしたよ」という意思は常に持つようにしている。
納得
人を納得させるには、色々な方法がある。
理論整然と書くことも大切だが、科学的根拠、証拠、統計データ、権威付けなどを挙げることも有効な手立てだ。これらは、他の書籍でも伝えられているだろう。
だが、人を説得するうえにおいて、最も大切なのは、証拠を記すことでもなければ、他人の言葉を借りてくることでもない。自信を持って言葉を発することだ。
たとえば、誰かのセミナーや講演会を受講した際、講師が自信なく講話していたら、あなたはどうだろう。どんなに理論的な証拠が揃っていても、自信を感じさせる語気や態度でなければ、説得力は欠けてしまう。たとえ、講師の話が理論整然でなく根拠がなくても、自信がみなぎっていたら、納得してしまうこともある。
文章は、筆者の顔も見えなければ、どのような心持ちで書いているのかも見えない。だが、自信の有無は文章を通じて表れてしまうものだ。「文は人である」という言葉があるが、まさにその通りで、筆者の人格は言葉に表れる。自信のありようも文章に必ず表れてしまうのだ。
では、どのようにしたら自信が持てるのか。
この話をしていたら、一本ブログが書けてしまうネタなので、ここではしないが、どのような人が自信のない文章を書くのかだけは言える。
それは、根拠や証拠、権威付けがなければ、自信を持って書けない人は、自信のある文章は書けない、ということだ。
自信に根拠も証拠もいらない。根拠や証拠に裏打ちされた自信など、本当の自信ではないからだ。たとえ、それらがなくても、自信を持って書ける人だけが、本当の意味で自信のある人なのだ。
大事なことなので整理してもう一度述べよう。自信は根拠や証拠の上に築くものではなく、自信の上に根拠や証拠を築くものなのである。
語感
言葉一つひとつには音がある。言葉の綴りにはリズムがある。
文章は「書く」という側面もあるが、「奏でる」という側面もある。
同じ言葉でも、漢字・ひらなが・カタカナでは与える印象が違う。
たとえば「言葉」「ことば」「コトバ」では、読んでいる人の頭に響いている音が違うのだ。
このように、言葉一つひとつが音色の違う音符なのである。そして「、」「。」の句読点は休符の役割をしている。紙面やブログに綴られた音符と休符は、心地よい音楽を奏でてくれる。特に、エッセイや詩、小説は語感が前面に出やすい。
個性的な文章を書きたがる人がいる。
だが、文章において個性は求める必要がない。あなたがどの言葉を選び、どのようにリズムを付けるのかが個性が表れているからだ。個性とは、出そうと思って出すものではなく、否応なしに滲み出てくるものなのだ。逆に、個性的でない文章を書くほうが難しい。
もし、語感の良い文章を書きたければ、語彙を広げることをお勧めする。引き出しが多くなるほど選べる音が多くなる。とりわけ日本語は、世界で最も言葉が多い。覚えるだけでも十数年は要する。
ぜひ、あなたらしい文章を奏でてほしい。
まとめ
文章は三つの要素で成り立っている。どれも奥深く、書くことを通じて、生きることや生き方を教えられている気さえしてくる。おそらく、文章にも「文章道」なる道があるのかもしれない。
本記事には、私が今まで文章を通じて学び、そして気づいてきた真理と道を述べさせてもらった。おそらく、あなたはあなたの答えを見つけるかもしれない。そのためのヒントになれれば幸いだ。
これからも私は、文章について模索し続けるだろう。
いつまでだって? 無論、死ぬまでだ。
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