斜め45度からの理説

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抽象化思考力を鍛える3つの方法&類推思考力を鍛える4つの方法

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本記事は、抽象化思考と類推(アナロジー)思考の鍛え方について解説している。興味があれば一読して欲しい。

 

 

抽象化思考と類推思考を鍛えよ

類推とは、事象Aを抽象化してその構造(特徴や要点)を見出し、類似する事象Bを見つけ出して結びつけることである。

類推のキーとなるのは、抽象化である。抽象化ができなければ、事象の構造を見出すことはできず、類推することもできない。もし、抽象化する力があれば、類推できるばかりか、発想力が高まり、今までとは違った世界が見えるようになる。この点について、私以外の方の言葉を借りて説明したいと思う。

まずは、書籍『メタ思考トレーニング』(著 細谷 功)から。

アナロジーのプロセスは「抽象化」と「具体化」の組み合わせによって成り立っています。それによって、「遠くから借りてくる」ことが可能になります。抽象化のレベルが上がれば上がるほど(つまりメタのレベルが上がれば上がるほど)汎用性が上がるため、遠くの世界が一緒に見えてきます。(p98-99)


続いて、書籍『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』(著 森 博嗣)から。

抽象化によって、適応できる範囲が広がり、類似したものを連想しやすくなることである。これによって、ある知見が、まったく別のものに利用できるチャンスが生まれるし、また、全然違った分野から、使えるアイデアを引っ張ってくることも可能になる。(p37)


最後に、書籍『アナロジー思考』(著 細谷 功)から。

抽象化思考によって個別の具体的事象の特徴を抽出し、単純化し、それらの関係や構造を明確にすることができる。これによってアナロジー思考の下準備ができるといえる。(p120)


引用文でも述べられているように、抽象化とは、具体的事象の構造(特徴や要点)を抽出(発見)することであり、類推するための下準備でもある。抽出した構造と同じ構造を持つ事象と見つけること(類推)ができれば、2つの事象が同じ世界に見えるばかりか、他の分野からアイデアを引っ張ってくることもできるのだ。ビジネスで喩えれば、ベルトコンベアを見て回転寿司を思い付いたように。

噛み砕いて言うと、「この事象の構造は何なのか」と考えるのが抽象化であり、「同じ構造をしているものは何か」「この要点を自社に当てはめるとしたら」と結びつけるのが類推である。

私が提供している教材『事例ライティング』では、「他分野の事例」を本業に結び付けて記事を書くよう勧めている(書き方も教えている)。「他分野の事例」と本業を結び付けるためには、否応なく類推をしなくてはならない。つまり、事例ライティングで記事を書き続けることで、自ずと類推思考力が鍛えられるのだ。私の狙いはここにある。事例ライティングを通じて類推思考力を鍛えるきっかけにしてもらいたいのだ。類推思考力が高まれば、必然的に発想力や応用力も高まることになり、その恩恵は面白い記事が書けるといった程度に留まらず、ビジネス全体に好影響を与えるだろう。

今回は、『事例ライティング』では伝えきれなかった抽象化思考力や類推思考力の鍛え方について解説したい。

 

 

抽象化思考力を鍛える3つの方法

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1、図解で考える

抽象化思考を鍛える最も良い方法は、図解で考えることである。図解はそもそも事象を抽象化したものである。「図解で整理しよう」と考えた途端、抽象化がはじまる。私は仕事柄、図解で考えるクセが付いているため、抽象化思考は思いのほかとっつき易かった。

書籍『アナロジー思考』(著 細谷 功)でも図解の重要性を説いた一文があるので引用したい。

ビジネスパーソンに必須の能力として「図解」があげられる。これは多くは他社へのプレゼンテーションという「説明」や「表現」のためのスキルとして語られることが多いが、アナロジー思考の上でも重要な役割を果たしている。それは、図解とはものごとの構造を見抜くためのツールだからだ。(P131)

プレゼンだけではなく、何かを考える際も図解を用いてほしい。図解で考える癖は、間違いなく抽象化思考力を鍛える。図解にちなんで言えば、マインドマップも抽象化思考を鍛えるツールとして有効である。

 

2、要点を箇条書きする

図解に続いて、私がよく用いるのは箇条書きである。「えっ、箇条書きが抽象化に関係するの? むしろ、具体化に近いと思うけど」と思うかもしれない。ただ話の内容を箇条書きしているだけでは確かにその通りである。大事なのは「要点」と「要点ではないもの」を分類して箇条書きすることにある。この分類は、話の内容(または事象)を抽象化して捉えないとできない。

箇条書きについて記した、書籍『超・箇条書き』(著 杉野 幹人)から一文を引用したい。

ただ羅列するのではなく、一つひとつの文の並びに意味を持たせればよい。伝えたいことを幹とし、その補足を枝として整理するイメージだ。伝えたい幹が複数あるときは、それらの間につながりをつくる。
そうすることで、相手は箇条書きの全体を眺めたときに、一つひとつの文だけではなく、その構造にも意味を見出すことができる。(p35)

私は箇条書きをする際、「要点は何か?」と常に考えるようにしている。これは、著者の言う「幹」にあたるだろう。こういった “問い”を念頭に置いて箇条書きすることで、事象の全体像や構造に意識を向けられる。これは同時に、抽象的に事象を捉える行為でもある。日常的に使う箇条書きでも、意識の持ちようで抽象化思考を鍛えることができるのだ。

 

3、常識を疑う

「常識(当たり前)を疑え」とはよく聞く言葉だが、実際はそう簡単に疑えないものである。生活になじみ過ぎており、疑いの目を向けることが困難だからだ。そこで私が提案したいのは、「正しい(良し)とされる常識を疑え」である。これなら、若干とっつきやすくなるだろう。

たとえば、最近私が他のブログで書いた記事に、「映画(ドラマ)のネタバレは、何が悪いのか」といったものがある。ネタバレは、観ていない人が面白さを減退させるという理由から、マナー違反とされている。そこで私は、「本当に面白さは減退するのか」と疑問を投げかけた。もしそうなら、はじまる前からネタバレされている大河ドラマは面白くないはずだ。小説がもとになっている映画も、小説を読んだ人にとっては面白くないだろう。だが現実は逆である。大河ドラマは高い視聴率を誇るし、小説の実写版もこぞって読者が観賞する。

私の問題提起が正しいか正しくないかは、とりあえず置いておく。「本当に?」「そもそも?」「なぜ?」といった疑心は、“当たり前”や“前提”の外に出る行為でもある。つまり、必然的に俯瞰的または客観的に事象を捉えることになる。

感のいい人は気づいたと思うが、「常識を疑う」というのは、クリティカル・シンキング(批判的思考)である。クリティカル・シンキングは抽象化思考にとって必要不可欠な要素になるため、身に付けてほしい思考法である。


以上が、抽象化思考力を鍛える方法だ。続いては、類推思考力を鍛える方法を紹介していく。

 

 

類推思考力を鍛える4つの方法

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1、構造が2〜3つ類似するものを探す

鍛える方法と言うよりは、どちらかと言うと類推する際のコツに近い。事象の構造(特徴や要点)を2〜3つ挙げ、同じ構造を持つ事象を探していく。

たとえば、広島カープの特徴を2~3つ挙げてみよう。
私が思うに、広島カープの特徴は、

① 長年(25年間)、良い成績(リーグ優勝)を残せなかった。
② それでも、優勝を信じて応援し続けてくれるファンが大勢いる。
これと同じ特徴を持つ他分野の事象はないかと考えてみる。

私が思い付いたのは、日本ワインである。近年世界から高い評価を受けている日本ワインだが、10年前までは正直言って酷いレベルだった。それでも、いつかは世界でも評価されると信じて日本ワインを買い続けたファンのお陰で、生産者はワイン作りを続けることができたのだ。

このように、事象を構成する特徴を2~3つ挙げて、それと似たものを探してくる。ちなみに、2~3つと言うのがミソである。1つだと何でも結びつけられるため、類推にならない。4つ以上だと類推先が近くの分野になりがちになり、面白味がない。ほどよいのが2~3つなのである。

 

2、抽象的な引き出しを増やす

自分の中の引き出しは少ないより多いほうがいい。先ほどの日本ワインの類推も、私がワインに多少知識があったため、広島カープと結びつけることができた。

では、どんなふうに引き出しを増やしていけばいいのか。コツがあるとすれば、「実生活では役に立たない抽象的な経験(情報)」を中心に増やしていくことである。この点に関して、書籍『アナロジー思考』(著 細谷 功)に詳しく記されているので、こちらを引用したい。

抽象化思考力を鍛えるためには、いわゆる「すぐに役に立つ」本とは真逆の読書が有効である。(中略)
いわば「即効性のない」本のほうが役に立つということである。これには2つの理由がある。
1つ目は、即効性が無い=抽象度が高いということである。具体性の高い、いわゆるハウツー本ばかり読んでいては「抽象化能力を上げる」という観点に限れば効果がまったくない。抽象概念を扱うことは、いわゆる「難しい」本、つまり抽象度の高い言葉で書かれた本を読み、そこでいかに自分の身の回りの経験と結びつけて抽象概念のレベルで考え抜けるかということが問われる。(中略)
もう1つの「即効性がない」という意味は、自分から「遠い」世界の本を読むということである。これは、アイデア博士になるための因数分解の公式の2つの因数に対しての対策だということがおわかりいただけるだろう。抽象化能力だけではアナロジー思考にはつながらない。遠い世界の知識や経験と重なってはじめて新しいアイデアとしてのアウトプットになるのである。(p240-242)

たとえば、本業とは一切かかわりのない書籍を読む。一見、役に立たないと思えるものが、抽象思考力を高め、類推する際の材料となる。

最近私が読んでいる書籍を例に挙げれば、「イスラム教」「近代史」「狼」に関する書籍、それと向田邦子の著作などを読んだ。宗教と歴史に関する書籍は引き続き読んでいく予定であり、映画評論と哲学書も加えていきたいと考えている。実用性のないもので面白そうなものを読むようにしていたら、自然と見聞が広がっていく。

 

3、日常的に類似性を意識する

類推思考力は、筋肉と同じである。日々、鍛えていなければ強化されないし、サボると弱化してしまう。類推思考力を鍛えるためにも、日常的に“類推するクセ”を身に付けていたほうがいい。

“類推するクセ”を身に付ける方法の一つとして、私は『事例ライティング』を提案している。ビジネスの一環として、ブログを活用している人は、記事を書く機会が多い。時々、類推した記事を書けば、類推思考力を鍛えるよい機会になる。

もちろん、それ以外の機会でも類推するようにしてほしい。私生活の中でも、意識を向ければ類推する機会はある。

書籍『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』の著者 森 博嗣 氏も、“類推するクセ”を持ち合わせていることをうかがわせる一文がある。

たとえば、草の生長のし方にある種の法則性を見出したり、工作のちょっとした失敗を経験した時など、「ああ、なるほどね」と感じる。それだけでは、アイデアにはならない。その「なるほど」と思ったことを抽象化し、ほかのものに当てはめて見るのだ。すると、まったく異なるジャンルにも、似た傾向のものがあることが発見できる。ここで初めて、使えそうなアイデアになる。
こういった類似性を見つけることで、その発想はさらに修正され、つまりフィードバックを繰り返し、次第に普遍的な法則のようなものとして洗礼されるだろう。(p118)

 

4、たとえ話や比喩表現を意識して使う

たとえ話も一つの類推思考力の鍛錬になる。ビジネスにおけるリーダーシップの話をオーケストラの指揮者にたとえてみる。こうしたたとえ話をするには、テーマとなる話と同じ構造を持つ事象を探して、結びつけなくてはならない。つまり、たとえ話が上手い人(より遠くの分野でたとえられる人)は、類推思考力が長けていると言える。

たとえ話と同様に、比喩表現も類推思考が必要になる。形容詞を用いて伝えるのではなく、意識して比喩表現を使う(考える)ことで類推思考力が鍛えられる。別言すれば、比喩表現がポンポンと出てくるような人は、類推思考力が高いと言える。これについて、書籍『新版 これからの思考の教科書』(著 酒井 穣)にも記されている。

日常的には、何らかの複雑な事象を説明するために比喩を使うことが誰にもありますが、特に比喩に長けているということは、それ自体が異なるものごとの間に共通点を見つけられる力の証明でしょう。アリストテレスも、優れた比喩が使えることを才覚の証としていました。(p131)

たとえ話や比喩表現をいきなり日常会話で使うのは難しいため、ブログ記事を書く際に使ってみてはどうだろうか。じっくり考えてから書くことができる。

 

 

まとめ

以上、「抽象化思考力の鍛え方」と「類推思考力の鍛え方」を説明してきた。偉そうに講釈を垂れている私自身も鍛錬中の身であり、この鍛錬には終わりがないと考えている。

以前の私は、「具体的な方法論以外、学ぶ意味がない」と考えていた。それが抽象化思考や類推思考に触れて、「抽象的なものほど価値がある」と考えるようになった。一周回って、役に立たないものほど役に立つことを悟ったのである。

昔の私のように、実生活や仕事で役立つ情報にしか重きを置いていない人がこの記事を見ているのなら、この世界に足を踏み入れてほしいと思う。間違いなく、見える景色が変わってくる。

抽象化や類推に興味を持たれた方は、本記事で紹介した書籍を読まれることをお勧めする。より深く理解できるようになるはずだ。

長文、お付き合いいただき感謝します。

 

 

補足

本記事をブログ記事にしたのは、二つの理由がある。一つは、口頭で説明するよりも活字にした方が伝わりやすいと思ったこと。もう一つは、新しい鍛え方や書籍を発見次第、追記していく予定であるからだ。時々、気が向いたら読み返してほしい。



 

アナロジー思考を用いた記事の書き方を解説した『事例ライティング』

 

 

追記 2020年5月13日
アナロジー思考&抽象化思考力を鍛えるノート術『ジーニアスノート』も開発しました。